001 ♯デザインⅠ
ずっと金沢でデザインという
言葉と戦ってきました。
01 デザイン会社の定義は?
デザイン会社と名乗るべきかは、デザインの定義による。
「で、VOICEは何屋なの?」と質問されたら答えに苦しみます。
金沢のデザイン制作会社?ブランディング会社?広告制作会社?映像制作会社?
いえ、そのすべての機能をもっていますが、どの業種業態にもあてはまらない。
わたしたちの仕事のメインは、いわゆる広告クリエイティブやデザイン業務というより、企業や商品が抱えている課題の解決です。グラフィックデザインやWebサイト制作を“解決策”として用いているのは事実です。目的に対する手段としてデザインがある、ということですが、話がややこしいですかね。
「デザイン制作をやっている金沢の会社ですが、みなさんの考えているような“デザイン会社”かというと、ちょっと違うと思います」
そういう歯切れの悪い回答をしてしまうのは、“デザイン会社”と名乗ってしまうと“手段”の部分にフォーカスされそうだからです。
色彩をどうするとか、造形をこうするとか、そういった技術やセンスを提供するのがデザイン会社、というイメージを払拭したい。わたしたちクリエイターは、課題解決の核心に迫る提案ができる。クライアントのビジョンの達成にコミットできる。きっと多くの人が考えている以上に、それができると思っています。
02 依頼者が制作者に期待することは?
表面的な装飾や演出がデザインなのか。
デザイン制作は手段と言ってしまうと、デザインを軽視しているみたいでしょうか。
いいえ、もとよりデザインはとても大事にしています。これからもとことん極めていきたい。でも、デザインの本質に向かうほど、一般的に思われている“デザイン”とは乖離していきます。
「デザインは何かを演出したり装飾したりする行為」
それが多くの人の見解だと思います。デザインのオファーをいただくお客様も、そのように考えている人が多いです。
「ロゴマークが古くなってきたからかっこよくデザインしてほしい」
「ホームページがダサイからリニューアルデザインをオファーしたい」
すなわち、色や、形や、レイアウトといった表層的な部分をよりよくしてくれ、と。
もっと美しく、もっとかっこよく、もっと素敵に、もっと現代的に、と。
そういうご依頼は、動機としては決して悪くはないです。ただ、デザインに対する期待が表面的な装飾や演出にとどまっているのは残念です。金沢を拠点に活動しているから、余計にそう感じるのでしょうか。いえ、いまどき金沢だからとか、地方だからそうなんだってことはないでしょう。
近年は「デザイン思考」「デザイン経営」「コミュニケーションデザイン」などの言葉が使われるようになりました。ひとむかし前と比べたら、デザインは表面的なものではないという認識もされてきているように思います。でも、まだまだでしょう。多くの人はデザイン思考がわたしたちのようなデザイナーの能力とは考えていないはずです。
問題は、わたしたちクリエイターの側にあります。デザインの本当の力を感じていただけるような仕事をしていないことに起因しています。
03 デザイン制作は価値を可視化する行為
まだ見えてないものを、見えるようにする。
「では、デザインの本当の力ってなんだ?」
よくお話ししているのは「デザイン制作は価値を可視化する行為」ということです。
違う言い方をすると「まだ見えてないものを見えるようにすること」。それがデザインの本質を表す言葉のひとつではないかと思っています。
たとえば、クライアントがすでに価値(特徴・魅力・個性)だと感じているモノやコトがあるとします。そのうえで「自社の事業の価値が伝わっていないから、もっと伝わるようにデザインしてくれ」といったご要望は、実際によくお受けします。
そのリクエストはすごくよくわかります。「おっしゃるとおり、せっかくのものがうまく伝わっていない。もったいないですね」と思うケースももちろんあります。そのときはもっと伝わるような表現アプローチを考えます。
ですが、わたしたちの考えるデザインは「価値をよりよく伝える行為」ではありません。
「まだ見えていない価値を探り出し、見えるようにする行為」
それこそがデザインの本質であると思っています。
04 デザイナーに必要なスキルは?
じつは芸術的センス以上に欠かせない能力がある。
クライアントは、まだ自身の本当の価値に気づいていない。
みんなが価値だと思っていることが、真に伝えるべきこととはかぎらない。
デザインワークは疑うことからはじまります。
「まだ見えていない(気づいていない)価値がきっとあるはずだ」という前提からスタートしないかぎり、いわゆる御用聞きの域は超えないし、そもそもゼロベースで考えることはできないと思います。
ちなみに、価値を発見し、価値を可視化することは、かならずしも芸術的なセンスを要するものではありません。多くの人がイメージする「デザイナーの能力や感性」によってできることではなく、問題発見力や論理的思考によって成されるものです。
あるいは、コミュニケーションセンスが不可欠だとも思います。人の話を聴く。人の話を引き出す。その人の声なき声にまで耳を傾ける。そのうえで、自分の頭で考えたことを、意図を、計画を、ビジョンを、相手に正しく伝える。言葉にする。共有する。ロジカルに思考したものを、ロジカルに説明する。
「なんだ、そんなの普通のビジネスパーソンと同じじゃないか」
と思われるかもしれません。そうなんです、クリエイターも同じなんです。ビジネスをやる者としてあたりまえに備えていたいセンスやスキルがなければ、事の本質に迫るような仕事はできない。ゼロベースで考えるためには、じつはベーシックな能力こそが重要なんです。いわゆる“0→1”にはクリエイティビティが不可欠、というのは妄想です。
妄想、とはちょっと言い過ぎでしょうか。でも、少なくともわたしたちはそう考えます。VOICEのクリエイターにはそうあってほしいと思っています。
05 デザイン業は問題発見業
「素敵なホームページ制作をめざす」のは正しいか?
どうやら多くの人は「クリエイティブは特殊な業務」とか「デザインはひとりで黙々とやる仕事」といったイメージを持っているようです。誤解です。
デザイン業は問題解決業です。VOICEが志向しているのは問題発見業です。つまり、あらゆる業種業態と概念を同じくしているということです。
仕事力とは「問題解決力」ですよね。すべてのビジネスは誰かの問題(課題や不満や不便)を解決するものですから、必要となる力は「問題を解く力」となる。同様に、デザイン力とは「問題解決力」です。そしてその力をつきつめていくと、「問題発見力」が肝になる。問題を解くためには、正しい問いを設定することが重要。解決策の質は、問いの質に依存するのです。
デザインの質も、問題設定の質で決まります。
実際に仕事をしていると、そのことを痛切に感じます。どんな問題を解決しようとしているのか=どんなゴールをめざしてデザイン制作しようとしているのか。この「問題=ゴール設定」を誤ると、“解かなくていい問題に取り組んでしまっている状態”におちいる。正しいゴールに向かわないクリエイティブ行為は、どこまでいってもクオリティ評価の対象になり得ないわけです。
たとえば「デザイン的に素敵なホームページ制作をめざしました」というのは、ありがちなコメントですよね。だけど「素敵なホームページ」は、どんな問題を解決するためのアクションなのか?なぜ「素敵なホームページを制作する」というゴール=目的をめざすことにしたのか?そこに正しい問題設定をした足跡は認められない。
わたしたちクリエイターは、日々の仕事のなかであたえられたゴール=問題を、もっと疑うべきだと思います。誰かに提示されたゴールは、はたして正しいゴールなのか?と。
もちろん、やみくもに疑うだけではいけない。自分自身で真の問題を発見することが肝要です。問題発見力=ゴール設定能力は、デザイナーであれば誰しもが持っている力なのですから。存分に発揮しなかったらもったいないです。
06 デザインの誤解を払拭したい
デザインの本当の力を証明するために。
潜在している価値を発見し、顕在化する。誰も気づいていない問題を発見し、それを正しく解決する。そのために必要な力をクリエイターは持っています。だから、もっとデザイナーに、デザインに、期待してほしいと思います。
どうすれば期待していただけるのか?
やはり相応の実績や能力を示していくことでしょう。
「多くの人が思っている“デザイン”を提供していたらダメだ」
それはVOICEが金沢で設立以来ずっと指針にしてきたことです。
巷に広がってしまったデザインの誤解を塗り固めるような仕事はできない、というプレッシャーは、正直いつも持っています。この記事のタイトルにでもある「ずっと金沢でデザインという言葉と戦ってきた」というのは、そういう意味です。
デザインの力を証明したいけれど、デザイン会社とは名乗りたくない。
デザイン制作が好きだけど、デザインという言葉が伝えるイメージとは距離を置きたい。
そういうジレンマとは、早くサヨナラしたいです。