003 #ブランディング Ⅰ
ブランディングとは何か?
という問いは、そもそも必要か。
01 金沢でブランディングについて思うこと
ブランディングはファッションか?
ブランディングというお題で記事を書くことには抵抗があります。
デザイン会社やホームページ制作会社が「ブランディングをやってます」というとき、そこにはだいたい虚勢がある。ブランド論を高尚に語るほど、背伸びしているように感じてしまう。VOICEもそう映らないか。むずかしいところです。
ブランディングという言葉が古くなってきました。
使い古された感がある、というほうが正しいでしょうか。口にするのが気恥ずかしくなってきた、と感じているクリエイターも多いはずです。
「なので、そろそろブランディングは禁句にしませんか?」
などと偉そうに語るつもりはありません。ブランディングは一過性のビジネストレンドではないはずです。使い古されようがどうしようが、便宜上、使えばよいでしょう。VOICEも、これからも都合よく使用しつづけます。
大事なのは言葉ではなく成果のほうだから、とも思います。
ブランディングというワードに古さを感じるようになったのは、言葉だけが先行して、肝心の成果が見えにくい事例が多いからかもしれません。
金沢を拠点に活動していると、いいなと思えるブランディング事例にはなかなかお目にかかれない(自分たちのことを棚に上げて偉そうにすみません)。ブランディングはファッションじゃない。メイクアップでもスタイリングでもない。いかに装うかを主題にしているブランディング事例ばかり目についてしまう、というのが金沢で感じることです。
02 ブランディングの成果とは?
即効性がないのがブランディング。
VOICEが金沢でブランディングのオファーをいただくようになったのは2005年〜2006年ごろからでした。以来、試行錯誤をくりかえしてサービスの内容をアップデートしてきました。16〜17年前と現在のやり方ではまったく違います。
いや、わたしたちがやっていることは3〜4年前とも違っています。
なぜ改善や変更をくりかえしてきたのか。ブランディングの”最先端のスタイル”を追いかけてきたから、などということではありません。“成果をあげること”を追求してきたからです。どうすればもっといい結果になるか?いい影響をあたえられるか?そのためにもっといいやり方はないかを模索しつづけていたら、いつのまにか過去とは違うものになっていった。
スタイルを追いかけてしまうと、
「ブランディングとはこういうものです」
「ブランディングの新しい定義はこうです」
などと言いはじめます。
「こんな手順で、こんなことをやるのがブランディングです」
先生のような口ぶりになっていく。それは成果にコミットした言動とは言いがたい。成果をあげるための試行錯誤をしていれば、高尚にブランド論を語ったりはしないはずです。
VOICEが考えるブランディングの成果とは何か。
「社員の方々のロイヤリティやモチベーションが上がることです」
「プロモーションコストが下がることです」
「事業や商品やサービスが“勝手に売れていく”ようになることです」
「優秀な人材が集まりやすくなることです」
「顧客がリピーターになりファンになりインフルエンサーになることです」
このような成果=ゴールに向かいたい。
しかしながら、成果が見えにくいのがブランディングではあります。即効性はない。じわりじわりと効いてくる性質のものでもありますから、成果が出てくる前に焦れてしまう人もいる。
「大仰なことをやったわりには、実態は何も変わらないじゃないか」
企業活動というのはおおむねせっかちですからね。ブランディングは経済合理性との相性が悪い、と感じる人が多いのは仕方のないことです。ただし、ブランディングは企業などの組織を力強く前進させる有効な方法論です。成果はちゃんとあげられます。これまでVOICEは相当数のブランディングをお手伝いしてきましたが、やって損した、といったような声をいただいたことはないです。
03 ブランディングの定義は多数
クライアントの個性を型に押し込めない。
ブランディングは何かしらの課題に対する解決手段。すなわち「ブランディングは“方法”である」というのがVOICEの考え方です。成果をあげるための方法論、という言い方もできるでしょう。
この前提を踏まえつつ、あらためてブランディングとは何か?と問われたら、
「一概には言えません」
とお答えするしかありません。
定義はさまざまです。
課題はさまざまでしょう。解決策はひとつじゃなくていいでしょう。
定義にとらわれると定型になります。型にとらわれた取り組みになる。ブランディングというフォーマットの中に企業や商品を押し込めることになる。結果、没個性になる。成果のひとつとして求めるべき“個性の確立”ができない。“他者との識別”もできない。
そもそもBRANDの語源は“焼印”ですね。
他のものと区別・識別をするために印=ブランドがいる。すなわち、ブランディングとは画一化しないための行為です。その他大勢とは異なる個性を際立たせる方向に進むべきです。ブランディングの対義語はコモディティ化でしょう。
だからこそ、大切なのはブランディングの教科書に書かれた定義をなぞることではないはずです。100社100様の課題と向き合って、それぞれの最善の解決策を導き出す。そのことのほうが重要です。たとえその解決策が、教科書に載っているブランディングの作法や論法とは違っていたとしてもです。
04 ブランド=旗印という考え方
理想と現実のギャップを埋めるために。
ご依頼いただくお客様側のブランディングの解釈(定義)はいろいろです。
「会社のコンセプトをつくって社内外に伝えたい=BRANDING」
「発信する情報やデザインに一貫性を持たせたい=BRANDING」
「会社の個性をつくって他社と差別化したい=BRANDING」
「企業イメージをよくしたい=BRANDING」
いずれの解釈も間違いではないでしょう。それぞれの定義があってもいいし、それぞれの求める成果があってもいい。
VOICEはクライアントごとにブランディングの定義をつくってきました。もしくは、解決したい課題ごとにテーマを設定してきました。
たとえば「理想と現実のギャップを埋めることこそブランディングではないか。だから理想をはっきりと指し示すことからはじめましょう」と。すなわち「旗印=ブランドが必要ですね」という具合に定義づけする。
あるいは「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を開発しましょう」「企業のパーパスを明確にして、すべての事業や行動を意味のあるものにしましょう」というテーマ設定をしたりもします。MVVもパーパスも、つまりは“旗印”ですね。組織の使命や価値観(提供価値)を言語化することで、方向づけする。集団のベクトルを合わせる。
余談ですが、旗印と聞いてイメージするのは戦国武将でしょうか。
織田信長は「永楽通宝」という言葉を図案化した旗印を掲げていました。豊臣秀吉の旗印には言葉はなく、ただただ金色に光る旗でした。いずれの旗印もそれぞれのアイデンティティが感じられる。信長や秀吉のビジョンに対して「我々は理想を追いかける集団である」との意識が芽生える。共感が生まれて団結する。方向性も共有できる。烏合の衆ではない。一体感を宿らせた集合体ができあがる。いいですよね。旗印の立て方のイメージとしてVOICEもよく参考にしています。
05 ブランディングの進め方
紋切型のヒアリングではないと思います。
ブランディングの進め方についてのご質問もよくいただきます。が、やはり定型はありません。課題も100社100様なら、設定するゴールもお客様によって異なります。解決策や進め方はおのずと100社100様になります。決まりきった方法論で取り組めば、結果も一定の枠組みの中におさまってしまいます。
パーパスやMVVの開発から進めていくことは多いです。言葉ありき。ですけど、すべてのプロジェクトに当てはめることはありません。それこそ定型です。
MVVは企業や事業を社内外にプレゼンテーションする際、とても有効な方法だと感じます。VOICEではここ2〜3年だけで30社以上のMVVを開発してきました。それでも「企業のステートメントは、100社あれば100様になってしかるべき」という考え方です。企業の使命や存在価値を示す方法は、他にもまだまだあります。様式や形式はそのつど考えていきましょう、ということになります。
進め方で共通するのは、初期段階のヒアリングでしょうか。最初にヒアリングを重ねて企業の課題や事業の本質を抽出します。ヒアリングもまた定型的なものではありません。わたしたちは「顕在化している課題」ではなく「まだ気づいていない課題」を見つけようとします。紋切型のヒアリングでは潜在しているものは浮き彫りにはなりません。
すべての企業や商品には潜在能力や潜在価値があるはずだ、そこにブランディングの糸口がきっとある、というのがVOICEのスタンスです。手前味噌ですが、わたしたちのブランディングサービスの真骨頂はここにあるかもしれません。
06 すべては「なぜ?」からはじまる
企業や商品の本当の正体を暴きたい。
「まだ気づいていない課題」を見つけるために大事な姿勢は、顕在化している課題を鵜呑みにしないことです。具体的には、クライアントのみなさまからのオファーを“受け止める”のではなく“掘り下げる”。このスタンスが大事です。
前述した「会社のコンセプトをつくって社内外に伝えたい=BRANDING」などのリクエストを受けたとき、わたしたちが最初に思うのは「なぜ?」です。
「どうして会社のコンセプトをつくって社内外に伝えたいのか?」
結果としてコンセプトが必要なのはわかります。それを社内外に伝えるが大切なのもわかる。ただ、その真意は何なのか?何のためのコンセプト発信なのか?
要するに、真の課題は何だろう?ということです。“コンセプトの発信”が課題じゃないんです。それは課題に対する解決策にすぎない。ヒアリングは、真の課題を発見するための最初のプロセスです。そう、プロセスであって、すべてじゃない。初期段階で重要なのは“観察”です。「なぜ、この会社はこんなふうに行動しているんだろう?」という疑問やテーマをもって観ます。
ときには仮説を立てて、観ます。
「もしや、この事業は本質的にはこんなサービスなんじゃないか?」
「この商品のターゲットは、じつはこっちの人たちなんじゃないか?」
そのうえで企業や商品をじっと観察してみる。ヒアリングで拾った声を鵜呑みにせず、かっこつけて言わせていただくと、虫の目・鳥の目・魚の目で観察することが大事です。いろんな視座から目を凝らすと、たいていは「まだ見えてなかった何か」が見えてきます。とりわけ、企業や事業、あるいは商品の存在意義・存在理由が浮かび上がってきたら、そのブランディングプロジェクトはシメたものです。
「なるほどこの企業の本当の正体はこういうことだったのか」
そんな発見がブランディングを一気に加速させる。それをきっかけにしてブランドコンセプトあるいはミッションステートメントを開発していくことがVOICEの場合は多いです。
ブランディングの話は尽きません。冒頭で「ブランディングというお題で記事を書くことに抵抗がある」といっておきながら恥ずかしいのですが、書き足りないことは次の機会にまた記事にしたいと思います。